高千穂オピニオン(人間科学部・社会学)

 
高千穂オピニオンとは、時事問題やトピックスなど商学部、経営学部、人間科学部の各先生方が研究者の視点から独自に分析・考察し、みなさんに分かりやすく解説するものです。これから定期的に高千穂オピニオンを配信していきます。どうぞご期待ください。

アメリカ大統領選挙 2016


 社会構築主義というものの見方がある。客観的で安定的なシステムとして社会を捉えるのではなく、不確定で流動的な人々の認識によって社会現象が構築されてゆくとする見方のことだ。通常これはラベリングや権力の捉え方で用いられるが、勝負事やレース、試合の現在進行の局面での「潮目」や「風向き」などの例だとイメージしやすい。

 2016年の一大政治イベントとなった米大統領選は、予想を超えて混戦化し、注目を集めた。選挙は、まず、党候補者選びの予備選・党員集会を全米各州で行い、11月、代表同士の本選で大統領が決まる。当選予想でも結果分析でもなく、ここでは現在進行形で情勢が構築されてゆくことに注目したい。民主党のクリントン、共和党のトランプは確かに序盤から注目されたが、前者は本命扱い、後者は異端や道化扱いであった。ところが、共和党の予備選はトランプが優勢になると、識者もメディアもその勝因を説得的に分析できない。「風向き」は明らかに変わったのだ。

 CNNやワシントンポスト紙がトランプ批判をし、TV討論会では対立候補と司会者がトランプに辛辣な質問を浴びせ、ミット・ロムニーら党の重鎮も反対キャンペーンを呼びかけた。しかし、この四面楚歌の状況で、米国民の現状への多くの不満を、彼は統合している。リベラルなメディアの影響は限定的にとどまるなど、メディア戦略論は見直しをせまられるだろう。トランプの選挙戦によって、有権者がどのような現状認識をもち、どんな不安を抱え、何を望んでいるか、すくなくとも共和党支持の一定層の現実を炙り出したことは否定できない。ムスリム入国禁止、国境に壁を建設といった過激な言動とそれへの賛同は米国の「闇」とされ、彼の戦術は「劇場」型と呼ばれる。だが単に劇場の演出を超えて、彼の集会場には多くの支持者が足を運び、反対派と乱闘騒ぎが起きるほど、有権者は真剣になっている。

 闇とはなにか。不満や矛盾はどの国も抱えている。だが、我が国の政治論議や社会運動の現状において、「闇」に訴えてでも国民を動員する政治家はいるだろうか。独自の取材をもとに「闇」を炙り出すメディアはあるだろうか。原発、沖縄基地問題、有事法制をめぐってさまざまな社会層、年齢層が声を上げる機運がある。だが、そうした行動が報道に上ることは少ない。集会の実データや発言の具体的内容がメディアで報じられることも、芸能やスポーツ情報に比べてすら少ない。しかし、米国選挙の事例が示すのは、既存の状況をもっとも強固にしているのは、「どうせ変わらない」という私たちの認識であるということだ。であるならば、停滞や閉塞はむしろ変革に向けた「潮目」であると捉えることはできないだろうか。現実は構築されつつあり、社会はつねに生成変化の途上にある。

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 教員紹介

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人間科学部 田中 正隆准教授

社会学、文化人類学、ゼミⅠ、専門ゼミ

 

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