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高千穂オピニオン(人間科学部・文化人類学)

高千穂オピニオンとは、時事問題やトピックスなど商学部、経営学部、人間科学部の各先生方が研究者の視点から独自に分析・考察し、みなさんに分かりやすく解説するものです。これから定期的に高千穂オピニオンを配信していきます。どうぞご期待ください。

 

 「パリ・アタック Paris Attacks 」

 「あんたが来る前の週にも北駅で不審な荷物が置き去られていて、大騒ぎになったばかりさ」。9月、パリで立ち寄った古本屋の店主が沈んだ顔で話していたのを思い出す。トルコ、ボドルムの砂浜に打ち上げられた3歳児の遺体の写真がメディアで大きく報じられ、人道主義の立場から難民受け入れにヨーロッパ各国が動き出したときだったので、身元不詳の者が引き起こすテロに対して不安を募らせる店主の語りが私にはとても重たく感じられた。

 2015年、フランスでの度重なるテロ事件は内なる不安を抱えた人々を震撼させた。年初の風刺画新聞社襲撃だけでなく、11月に再び劇場やカフェ、レストラン、スタジアムが惨劇に見舞われた。これらは官庁街や軍施設、ターミナル駅など警備が厳重だった場所ではなく、手薄な場所=ソフトターゲットをねらった犯行と言われる。だがこの翌週にも西アフリカ、マリの首都バマコでイスラーム系組織によるテロが続いた。つまりソフトターゲットは一国内ではなく世界大に広がっている。仏大統領オランドは国家が「戦争状態」にあると宣言し、警戒を強めるとともに「敵」と目される「イスラム国(IS、Daesh)」拠点ラッカへの攻撃を本格化させた。11月時点で世論の6割がこの対応に同意、容認しているという一部報道もある(Odoxa)。この一連の動きは政教分離(ライシテ)、表現の自由、若年層の就職差別、アイデンティティ危機、難民問題、安全保障と他国への介入主義など、日常生活から国家間レヴェルまでさまざまな問題がからまり、単純な理解は許されない。

 「9/11」以降、人類学、宗教学の分野では、リベラル・デモクラシーや公共的理性の再考を促すことで過剰な宗教批判を相対化する論調があったが、この圧倒的な暴力の応酬や政治の混迷を前にして、今後思考することがきわめて困難になることは必至だ。ヨーロッパ国籍をもち、ムスリムとしての習慣や教養が浅い若者が、過激思想に転じて犯行に及ぶ、いわばその大義として宗教=イスラームを流用する面もあるからだ。しかし、悲しみに沈み、恐怖におののくのではなく、死者に花をたむけ、音楽を奏で、討論し、アートの表現を模索するなど、人の和をとりもどすための試みはないだろうか。深い悲しみから人が立ち直る術とは何か。他者を受け入れ、他者と向かい合うという課題をもつ私たちもまた、遠い存在ではいられない。

 

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18区役所前でのアフリカ系難民のデモ活動            10区レピュブリック広場に捧げられた花やメッセージ

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 教員紹介

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人間科学部 田中 正隆准教授

社会学、文化人類学、ゼミⅠ、専門ゼミ

 

田中准教授の紹介ページ:

https://www.takachiho.jp/outline/professor/_1438/_1499.html


人間科学部 カリキュラム紹介:

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