高千穂オピニオン (人間科学部・言語学)
高千穂オピニオンとは、時事問題やトピックスなど商学部、経営学部、人間科学部の各先生方が研究者の視点から独自に分析・考察し、みなさんに分かりやすく解説するものです。これから定期的に高千穂オピニオンを配信していきます。どうぞご期待ください。
混成語としての「ドコッチ」について
「『ドコッチ』と言う製品が発売される」というニュースを見たとき、名づけの巧みさに感心した。この製品名がどのようにつくられ、何を意味するかを言語学的に考えてみた。二つの単語の一部を切ってつなぐ、混成語と呼ばれる語形成のプロセスについて、順を追って説明する。「ドコッチ」という製品名が出来上がるプロセスには、3つの可能性が考えられる。
(1) 「どこ」(指示代名詞(別名、こそあど言葉))と「ウオッチ(watchを本来の英語の発音ではなく、日本語読みにしたもの)」がもとになっている:
「どこ(2拍の「ド」+「コ」)」と「ウオッチ」の「ッチ(「ウオッチ」の語末の2拍にあたる促音の「ッ」と「チ」)」をつないで、
「ドコ(=どこ)」+「ッチ(=ウオッチ)」→「ドコッチ」
←子供が何処にいるかを知らせてくれるスマートウオッチ
(2) 会社名の「ドコモ」と「ウオッチ」がもとになっている:
「ドコ(「ドコモ」の語頭の2拍である「ド」と「コ」)」と、「ッチ(「ウオッチ」の語末の2拍にあたる促音の「ッ」と「チ」)」を合わせて、
「ドコ(=ドコモ)」+「ッチ(=ウオッチ)」→「ドコッチ」
←docomoが製造販売するスマートウォッチ
(3) 会社名の「ドコモ」と少しくだけた指示代名詞の「どっち」がもとになっている:
「ドコ(「ドコモ」の語頭の2拍である「ド」と「コ」)」と「ッチ(「どっち」の語末の2拍)にあたる「ッ」と「チ」)」をつなぎ、
「ドコ(=ドコモ)」+「ッチ(=どこ)」→「ドコッチ」
← 意味は?
3番目の可能性は言語学の理論からは除外される。混成語は、右側の原語の長さ((3)では指示代名詞の「どっち」の3拍)を引き継がなくてはならないという法則があるためである。(3)では、最終的に出来上がる混成語は3拍の長さでなければならないのに、「ドコッチ」は3拍ではなく4拍である。(1)と(2)の右側の原語である「ウオッチ」は3拍ではなく4拍である。日本語の母語話者であれば、1番目と2番目の語形成の過程を通して「ドコッチ」をつくりだす。きっと「ドコッチ」の命名者も、これら2つのプロセスを想定しているだろう。「ドコッチ」の響きは、①子供が何処にいるかを知らせてくれるスマートウオッチ、②docomoが製造販売するスマートウオッチという二つを意味しているのだ。
教員紹介
人間科学部 松谷明美教授(言語学)
取材・撮影などはこちらから(担当/総務課):